Evidence Vol.001 /「AO入試」の再評価慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)を事例に

2016.02.28

Evidence Vol.001 /「AO入試」の再評価
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)を事例に

「AO入試」の再評価/慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)を事例に
慶應義塾大学総合政策学部准教授 中室牧子


AO入試が大学入試の1つのあり方として一般化して久しい。最近では、早稲田大学がAO入試入学者枠の拡大の引き上げを発表したり、国立大学である東京大学、京都大学なども一般入試以外の推薦入試を実施した。AO入試は、従来の筆記試験を重視した入試(以下一般入試)とは異なり、筆記試験の結果によらず、書類選考と面接によって多面的能力の総合評価による入学者選抜を行い、出願者自身の問題意識や入学後の計画を大学側の求める学生像と照らし合わせることが出来るという点で注目を集めた。


学力の低下を招いたのか

文部科学省が公表している学校基本調査のデータをみると、大学進学率が50%を超える一方、大学での中退率や留年率が増加している。こうした現状を踏まえると、大学側が入学30後の目的意識を明確に持っている学生を受け入れたいと考えるのは自然であろう。AO入試元年といわれた2000年にはAO入試を含む推薦入試を経由した入学者は全入学者の33.1%だったのが、2012年には43.3%に増加した。しかし、AO入試や推薦入試に問題がないわけではない。まず、AO入試が大学生の学力低下を招いているとの指摘が ある。入試区分でみてみると、AO入試入学者の基礎学力は一般入試入学者に比べ低いことに加え、AO入試による入学者が選抜方式としてAO入試を選択した理由の一つとして「一般入試に向けての受験勉強が大変だったから」(ベネッセ教育研究開発センター、2012)などという、受験勉強を回避する動機が根強いことも示されている。この傾向は低偏差値の大学の志願者ほど強い。私立大学では全大学の50%近くが定員割れを経験しており、定員割れしている大学ほどAO入試の導入率が高い。

セレクション・バイアス

AO入試で合格し入学した学生は、入学後どのようなパフォーマンスを発揮しているのだろうか。結論から言ってしまうと、大学によってそれぞれであるといえよう。SFCをはじめとする選抜性の高い私立大学では、AO入試入学者の成績が他の入試区分の入学者よりも高いことが示されているが、国立大学の多くでは、AO入試入学者の成績が一般入試入学者よりも低いことを理由にAO入試の廃止が相次いでいる。また、特定の大学に限らず、日本全体に一般化可能性の高いデータを用いた先行研究においても、AO入試が優秀な人材を獲得できているというエビデンスは示されていない。しかし、先行研究は、AO入試の効果として成績だけに着目している点や、経済学でいうところのセレクション・バイアス(AO入試を選択する受験者が、そもそも他の入試区分を選択する受験者と根本的に異なっている可能性があり、入試区分の選択がランダムでないことによって生じるバイアス)をコントロールできておらず、入試区分と成績の因果関係がはっきりしないという問題がある。本研究の目的は、AO入試の歴史が最も古いSFC在学者に対する質問紙調査をもとに、AO入試入学者が、一般入試入学者と比べて、どのような差が生じているのか、特に、リーダーシップの発揮や、満足度、目的意識、SFCへの帰属意識、精神面の健康状態を定量的に明らかにすることである。SFCの在学者約200人に対して質問紙調査を行い、各学生がどのような入試区分で入学したかの情報に加え、教育心理学で用いられる学校適応感・学校享受感・学校への帰属意識・抑うつ感から因子分析を用いて抽出された様々な指標やPM理論から導かれるリーダーシップ尺度に対する入試区分の因果効果を推計することを試みる。

一般入試者より高い「4つの因子」

この研究では、傾向スコアマッチングという計量経済学的な手法を用いてセレクション・バイアスをコントロールすることを試みている。単純化していうならば、AO入試入学者(処理群)とその他の入試区分の入学者(対照群)のうち、よく似た属性の人を選び出して、アウトプットを比較するという発想に基づくものだ。具体的な手続きとしては、AO入試入学者の属性をある程度集約して表現した条件付き確率(=傾向スコア)で、その他の入試区分の入学者をマッチングさせ、AO入試入学者の反実仮想(counterfactual)とする。そして、2つのグループを比較する。セレクション・バイアスをコントロールした傾向スコアマッチングの結果をみてみると、AO入試入学者は「リーダーシップ」に加え、「課題・目的の存在」、「(帰属意識の)内在化」、「規範・世間体(に基づく帰属意識)」の4つの因子が一般入試入学者よりも高いということが明らかになった。AO入試の目的の一つが「問題意識の明確な学生を確保するため」(夏目、2002)だとするならば、少なくともSFCのAO入試という選抜制度はその趣旨にかなった役割を果たすことが出来ていると評価できよう。一方、筆者らはGPAやAO入試入学者の卒業後の進路の情報にアクセスできていないが、こうした心理指標とGPA、AO入試入学者の卒業後の進路との間にどのような関係があるのは今後分析をすすめ、さらに踏み込んだ評価がなされることが期待される。

足りない「教育効果の測定」

入試制度の改革が議論されるなか、AO入試が入学後の成績や自己実現性が高い学生を獲得できているのかどうかは、学問的のみならず政策的にも高い関心事項である。エビデン ス(科学的根拠)に基づく教育政策ということが叫ばれて久しいが、それに反して学校や大学は、学内で蓄積された業務データを研究者に開示し、教育の効果を厳密に測定することには消極的であることが多い。これは業務データに学生の個人情報が含まれていることによるものと想像されるが、昨今では、個人情報をマスキングする技術も発達し、個人情報の保護に配慮しながら、政策的意義の大きい研究を遂行していくことは十分可能になっている。まずは小さな集団の中で行われた施策(Plan)を実践(Do)し、データを開示して厳密に効果を測定(Check)し、その施策を拡張するか否かの判断を行う(Action)のPDCAサイクルが、教育分野においても徹底されることが必要だ。特にこれまで、教育効果の測定(Check)の部分が十分に機能してきたとは言い難い中では、大学の入試制度のように、社会の仕組みを大きく変える可能性のある政策こそ、質量ともに十分なエビデンスに基づく政策であることが望まれる。この点、政策担当者や学校、大学関係者に理解を求めたい。

推計結果

表1(1)には、各被説明変数とAO入試入学者であれば1、一般入試入学者であれば0というダミー変数の単回帰の結果が示されている。このため表1の(1)~(3)で示された回帰係数はいずれもAO入試入学者と一般入試入学者の差を表しており、係数がプラスで統計的に有意であれば、AO入試入学者のほうが一般入試入学者よりも高いことを意味している。概ね、AO入試入学者は、リーダーシップに加え、課題・目的の存在、満足度、内在化、規範・世間体の5つの因子が一般入試入学者よりも高いということが明らかになった。



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