大学改革


2014.12.18

2015/1/28シンポジウム開催
「グローバル競争の中での自立した大学のあり方 
― 社会との連携とガバナンス・コンプライアンス ―」

主旨

大学はいずれの国や地域においても、アカデミアに根ざした独立した存在であるがゆえに、常に新たな知識や文化の提供者であり続けた。そして、現在欧米およびアジアの地域を問わず、そのような大学の知識の源流としての役割を、今後さらに発展させることが期待されている。現在の大学はイノベーションの源流を担う重要なプレーヤーであり、起業家的な大学像を期待することも珍しくはなくなっている。実際に米国においては大学から多くのベンチャー企業が生まれ、経済効果もGDPに無視できないインパクトを与えるまでに発展した。

一方で新たな知識を生み出す主体としての大学であり続けるためには、政府や産業組織とは異なるアカデミアとしての研究・教育活動の独立性を維持するためのガバナンスや、社会からの期待(Integrity)をより高めるためのマネジメントは欠かせない。

本シンポジウムでは、欧米アジアオセアニアなど世界のこのような社会と連携する大学において、社会との接点を担っている第一線のゲストをお招きして、世界の大学が社会と連携するその現状を紹介しつつ、そこで重要になるガバナンスやコンプライアンスなどのマネジメントに焦点を当てて議論を行う。あわせてこれらの社会との連携とガバナンス・コンプライアンスの車の両輪を支える人材育成についても議論を行う。

日 時

2015年1月28日(水)9:30-17:30

会 場

東京大学本郷キャンパス 鉄門記念講堂(医学部教育研究棟14階)

主 催

東京大学政策ビジョン研究センター、政策シンクネット

共 催

大学技術移転協議会

参加費

無料

言 語

日英同時通訳

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プログラム

9:30

オープニング 検討中

9:50

第1部 国境を超えて社会と連携する大学:各国の状況
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モデレーター

山本貴史(株式会社東京大学TLO 代表取締役社長)

パネル

Jane M Muir, RTTP: AUTM 会長, Associate Director, Office of Technology Licensing, University of Florida(アメリカ)
Alison Campbell, RTTP: Managing Director, Alison Campbell Associates Ltd(アイルランド)
Kevin Cullen, ATTP前会長 CEO, New South Innovations, The University of New South Wales(オーストラリア)
Erik Vane, General Manager, ASTP Proton (オランダ)
Alfred Schillert, RTTP: Managing Director, PROvendis(ドイツ)
羽鳥賢一(慶応義塾大学理工学部大学院 理工学研究科 特任教授)

11:30

第2部 社会と連携する大学のガバナンスとコンプライアンス(1)
機微技術のマネジメント

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モデレーター

城山英明(東京大学法学政治学研究科教授 公共政策大学院 院長)

パネル

Paul Keim, Professor ,Translational Genomics Research Institute (TGen), Northern Arizona University (アメリカ)
伊藤正実(群馬大学教授 産学連携学会会長)
森本正崇(一般財団法人安全保障貿易情報センター 輸出管理アドバイザー)

コメンテーター

Regina Summer, SNITTS Executive Director, SNITTS (スウェーデン)

13:00

ランチブレイク

14:00

第3部 社会と連携する大学のガバナンスとコンプライアンス(2)
利益相反と研究不正

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モデレーター

渡部俊也(東京大学政策ビジョン研究センター教授)

パネル

Jaci Barnett, Director: Innovation Support & Technology Transfer at Nelson Mandela Metropolitan University(南アフリカ)
David Gulley, University of Illinois, Associate VP for Technology & Economic Development(アメリカ)
Jeff Skinner, Executive Director, The Deloitte Institute of Innovation and Entrepreneurship, London Business School ATTP Board of Director(イギリス)
AraTahmassian, Harvard University, Chief Research Compliance Officer(アメリカ)
上山隆大(慶應義塾大学総合政策学部教授)

15:40

第4部 国境を越えて社会と連携する大学:大学技術を事業化する担い手の育成
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モデレーター

伊藤伸(東京農工大学大学院 工学府産業技術専攻教授)

パネル候補

Sean Flanigan, 前AUTM会長ATTP新会長、Assistant Director Technology Partnerships, University of Ottawa(カナダ)
Athena Prib, RTTP: KCA, Commercial Director, Gemaker (オーストラリア)
Kajsa Hernell, SNITTS: Marketing Staff, SNITTS (スウェーデン)
David Winwood, PhD, RTTP,Pennington Biomedical Research Center, Chief Business Development Officer(アメリカ)

17:10

クロージング


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シンポジウム開催報告

東京大学政策ビジョン研究センターと政策シンクネット主催で、「社会と連携する大学のあり方」について議論をすることを目的とした国際シンポジウム「グローバル競争の中での自立した大学のあり方:社会との連携とガバナンス・コンプライアンス1」が開催されました。世界9ヶ国の大学から15人のゲストを招いて「産学連携」「機微技術と大学」「研究不正と利益相反」「社会との連携のための人材育成」の4つのパネル討論が行われました。

かねてより産学連携をトピックとした会議は少なからずあったと思いますし、また最近問題が頻出するようになった研究不正や大学の研究にまつわる利益相反を扱う会議も増えてきています。しかしこれらの議論は、今までは異なるトピックスとして別々に行われてきたのではないかと思います。どうやって大学の技術をイノベーションに効果的に生かしていくかという、産学連携や技術移転推進施策はポジティブな話題であり、総合科学技術イノベーション政策で取り組まれてきた中核的な課題です。科学技術政策の推進に伴って国税を投じた研究費も増加しており、研究面での大学と政府との関係もより深まっています。

これは日本だけでなく産学技術移転を主導してきた米国や、規制緩和の流れから産学連携が進展したイギリス、日本で最近注目されている橋渡し機能を組み込んだシステムを有するドイツなどにも見られる世界的な傾向で、今回の会議でもアイルランドのような小国でも大学からの技術移転を政府主導で進めて成果を出している事例(Alison Campbell博士)が報告されました。一方で政府が大学への予算をカットして産学連携も沈滞しているオーストラリアの事例(Kevin Cullen博士)なども紹介され、改善すべきであるとする問題提起なされたように、大学と社会との関係は各国政府の政策による大きな影響を受けています。同時にインターネットや情報技術の発展によりコミュニティーとの連携も容易になったことで、大学研究者が独自に社会との連携を深めることも盛んになりました。この結果、産業界だけでなく大学と社会との関係は政府や一般社会との関係を含むより緊密なものになったと言えます。日本でも1990年代の後半以降進められた産学連携推進施策によって進展した産業界、政府や一般社会との関係は、日本の大学が戦後長い間象牙の塔であった時代があったことからすれば隔世の感があります。

一方で、日本では最近STAP細胞問題に象徴される研究不正にまつわる事件が増加しています。こちらは科学への信頼の失墜につながりかねない深刻な課題として取り上げられています。かつては研究不正の問題というのは一部専門家だけが関心を寄せる課題でしたが、ここに来て一般社会が懸念を抱く問題になっています。同時に比較的最近、研究成果の不適切な利用の可能性という問題も生じてきました。その例としては日本の研究者が参加したバイオ関係の研究論文発表が、テロに利用される可能性があるとして、米国政府機関によって公開制限を受けるというケースが生じました。過去にも原子力やミサイル技術に転用できる制御技術など、いわいるDual Use(規模技術) と呼ばれる技術情報の取り扱いについては、輸出管理面から法的規制が加えられてきましたが、これらの技術ではそれなりの設備が必要であるなどの技術開発上の制約から管理は比較的容易であったといえます。しかし、この事例のようなバイオ合成技術においては、知識そのものが悪用されることによって大きなリスクとなることから、基礎研究成果の公表の是非という問題が発生しているものです(Paul Keim博士)。最近日本でも防衛研究に産学連携が活用されるなど科学技術研究の軍事転用の問題にも世間の注目が集まるようになってきています。いずれも大学や公的研究機関の活動と社会との接点において生まれた新たな課題であると考えてよいと思います。

実はこれらの問題を掘り下げていくと、単に大学と社会の関係に生まれたという共通点だけではく、それ以上にこのポジティブ、ネガティブな2つの現象は、相互に因果が絡み合っている事象であることに気づかされます。今回の会議で示された事実として、米国においても日本においても、大学が社会との関係を緊密化した時期と研究不正や利益相反の問題が増加した時期はぴったり一致しているのです。米国では1980年に政府資金による研究成果の移転を促進するためバイ・ドール法が制定され、その結果として産学技術移転が盛んになりましたが、日本でも同様に1999年の日本版バイ・ドール法2の制定以降、研究不正や利益相反の問題が顕在化して、現在も増加しています。その因果は複雑で、たとえば大学や研究機関と企業などとの2つの異なるミッションを有する機関と、金銭的な関係を結ぶ、あるいは双方の機関に責務を負うことで生じる利益相反は、研究不正の有力な促進要因として働くことが知られています。

また各国の科学技術政策の推進に伴い、優れた研究成果を求める競争環境の激化が研究不正の原因になることが分かっています。同時に最近は科学技術政策の目的がイノベーション促進としての性格を強めていることもあり、大学や研究機関は組織として、または研究者個人も、益々複雑な金銭的あるいは責務を含むさまざまな利害関係を構築するようになりました。研究不正や利益相反の疑いによって、大学や研究機関が社会からの期待が裏切られれば、それはその組織だけでなく、そこで研究に従事する研究者にとっても大きな損失であり、そのことは研究活動や産学連携の減退にもつながります。そういう意味でこの会議で扱ったポジティブ、ネガティブと称した2つの現象は、コインの表裏であり、科学技術イノベーション政策の側面から見れば車の両輪であるともいえます。この2つの現象に対して科学技術イノベーション政策はどのように扱い、どのように導いていけば、望ましい姿に近づけるのでしょうか。

米国では、このコインの表裏の現象、社会との連携の活発化と研究不正などの問題点が同時に深刻になってきたときに、盛んに使われるようになった概念があります。それはResearch Integrityという言葉で表されるものです。現在米国ではOffice of Research Integrityという政府機関があり研究不正に関する監視や情報収集などを行っていますが、日本語ではこの機関を研究公正局と訳すことが多いようです。一般的に「公正」であれば英語ではJusticeですが、このIntegrityは単なる「公正」というよりもはるかに幅広い概念を有していて、たとえばmisconduct を防止してIntegrityを維持するというような使われ方をします。Integrity の語源は「完全な」を意味するラテン語の Integer だといわれています。使われ方によって「高潔さ」「真摯さ」「正直で誠実」などとも訳されていますが、特にここでいうResearch Integrityはこれらの訳語がそのまま当てはまらない、日本語に訳しにくい概念です。ここではとりあえず「大学や研究機関が維持しなければならない社会から見て欠陥のない状態」を指すと考えたいと思います。

今回の会議では、Research Integrityという概念は、1980年以降、社会との連携を急速に進めた米国の大学が、その存在価値を維持するために生み出した、あるいは生み出さざるを得なかった概念であるのではないかという意見も示されました(上山隆大教授)。調べてみるとこのResearch Integrityという言葉も、やはりバイ・ドール法が施行された1980年代以降に盛んに使われるようになっています。今回のゲストであるハーバード大学のコンプライアンスオフィサーであるAra Tahmassian博士は、発表資料の中でこのResearch Integrityを「研究者と社会との契約である」"Research Integrity is a contract between researchers and the society."と称しています。つまりはコインの表裏ともに、そこでなすべきことはすべて社会との契約の一側面であるということになります。そして、「そしてそれは強制することはできず、関係者が自ら実践すべきことである。」"It cannot be enforced, it must be practiced by all involved."とも述べていることは重要だと思います。

我々は社会との連携を深める大学とそこで遭遇する問題について、たとえば「産学連携の推進」と「利益相反の防止」という別々の施策で捉えてきたものと思われます。産学連携の促進と研究不正の防止は別々の組織が担当して、これらを大学経営の問題として捉えることは少なかったのではないかと思われます。しかしこの2つの事象は別々なものではなく、社会との連携を深める大学が「Integrityを確立する」ことであるという意味で、社会と連携する大学のあり方そのものとして考えるべきなのではないでしょうか。

今回の会議は慶応義塾大学と連携して、大学や研究機関全般を対象としたシンポジウムという位置づけで実施いたしました。過去今回のテーマと関係するイベントとしては、国立大学のあり方に焦点を当てたシンポジウム「国立大学法人法施行から10年―大学改革とイノベーションへの貢献3」を2013年10月12日に実施し、法人化後10年社会との連携を深める国立大学のあり方を議論しております。その議論の帰結として「国立大学法人は、産学連携政策を含む現在の大学に関係する多様な政策の統合主体として役割を果たすべきである。」という提言4をいたしました。それは2004年以降はじまった大学法人として産学連携に従事する際に、政府主導で産業界の多様なニーズに応えるためのさまざまな政策制度に対応しようとしてきたため、結果的に効率の悪い対応を余儀なくされた面もあったことが背景にあります。そのことを踏まえ「大学の独立したマネジメントによって科学技術政策や産学連携政策等、大学が関わる多様な政策の統合をも実現することが期待される。政府も政策立案と実装に際して、このような大学の役割と機能にもっと注目するべきである」として「独立性が求められる大学が自ら社会との関係性のあり方を提案する試みは、さらに具体的な10年計画の姿を明らかにしていくために、2014年4月に法人化10周年を迎えるまでの活動に引き継がれる」と結んでいます。

今回の国際会議は、議論の対象は国立大学だけでなく、広く世界の大学や研究機関を対象としたものですが、「Integrityを確立することによって社会との連携をよりいっそう深めることが可能となる大学の将来像」を見出すことができたのではないか、という意味において国立か私立か、大学か研究機関かという領域を超えて、2013年の会議を引き継ぐ位置づけでもあったということもできると思います。

そうであれば今後10年、そして次期科学技術イノベーション政策においては、社会との連携を深める大学と公的研究機関のIntegrityの確立のための諸政策が盛り込まれる必要があるということに帰結します。企業とは異なる大学の特徴を自立的に発展させた形でのIntegrity をより高める産学連携のあり方と制度、利益相反の対策や研究不正の防止を目的とするのではなくIntegrityを確立する大学や研究機関の取り組みと、これを支援する諸施策など、このような考え方のもとに具体的な政策を検討することが必要と思われます。

本会議を契機としてこのような政策の検討をさらに具体的に進展させるために、引き続き「大学と社会」の研究をさらに深めていきたいと思います。

東京大学政策ビジョン研究センター教授 渡部俊也(本シンポジウムオーガナイザー)

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