大学改革


2014.12.19

社会との連携とコンプライアンスという両輪
渡部俊也教授に聞く

―― 2015年1月28日に「自立した大学のあり方」について、「社会との連携」や「ガバナンスとコンプライアンス」などをテーマにシンポジウムを開催されることになっていますが、その狙いはどこにあるのですか。

渡部先生

渡部日本の大学、とくに国立大学は2004年まで法人化されなかったこともあり、組織として社会との関係構築がなかなかできていませんでした。しかし世界に目をやると、大学自身が自立した組織として社会と連携し、さまざまな試みを行っています。とくにアメリカの大学は1970年代は貧しかったのに、財団をつくって投資したり、研究成果の知財を活用して産学連携を強化して、財務的にも豊かになりました。

その面で大きかったのが1980年に制定されたバイ・ドール法です。連邦政府の資金で研究開発された発明であっても、大学や研究者、民間企業が特許権を取得することを認めたのです。その結果、多くのベンチャー企業が生まれ、経済効果もGDP(国内総生産)にインパクトを与えるまでになっています。

日本の大学も、新たな知識を生み出す自立した存在として、そしてイノベーションの源流を担うプレーヤーとしての役割を担うことが、世界の潮流を見ても、また日本の経済成長を担う上でも求められています。その思いからこのシンポジウム開催に至ったしだいです。

 

―― アメリカ政府は資金提供を行うにあたり、大学に何らかの制約を課さなかったのでしょうか。

アメリカの大学が勝ち取った「裁量」

渡部アメリカの大学は、国の研究開発であっても自主決定権に基づく研究を行える裁量を勝ち取ったんです。そのきっかけとなったのが、第2次世界大戦中のマンハッタン計画でした。原子爆弾の開発が急務だったこともあり、政府は物理やコンピュータサイエンスなどの研究者の裁量に任せて軍事研究をやらせたわけですが、これが第2次世界大戦の勝利につながった。

この成功はマンハッタン計画を主導したMITの元副学長ヴァネヴァー・ブッシュの功績です。それを踏まえて1945年7月に彼が当時のトルーマン大統領に提出した『Science, the Endless Frontier』という報告書によって、戦後のアメリカの科学技術政策が決定づけられたと言っても過言ではありません。

そうやってアメリカの大学は国の資金と自主決定権を獲得し、さらに1980年にはその成果である知財も手に入れたことで、財政が豊かになって自立性を高め、大学としての強みを築いてきたのです。

―― シンポジウムでは「ガバナンスとコンプライアンス」の問題も扱う予定ですが、それは「大学の自立」とどう関係するのでしょう。

渡部社会との連携を密にし自立性を高めていくと、研究不正や利益相反を組織として直面することが避けられません。実際アメリカの大学では、そういった問題が1980年代にたくさん起こりました。そこで彼らは、自主的にコンプライアンスやガバナンスの強化を行ってきました。つまり、社会との連携と、コンプライアンス、ガバナンスとはセットなんです。

日本の大学が産学連携やベンチャーなどによって財政面の基盤を強化し自立するにあたっても、研究不正や利益相反の問題を解決していく必要に迫られることは間違いありません。そのため今回のシンポジウムでは、この問題を大きなテーマの1つに据えたいと考えたわけです。招聘したさまざまな国の大学関係者から各国の現況を聞いて、日本が学べるところは学び、連携していけるところはしていければと思っています。

―― 研究不正の問題は、日本でも少し前にSTAP細胞の論文をめぐり大問題になりました。アメリカではそうした不正を抑制するために、どういったことをしているのでしょうか。

渡部アメリカでは行動経済学あるいは社会心理学の領域で、研究不正の問題に関する実証分析研究の論文がたくさんあります。どういったことが本当に研究不正のドライビングファクターになり、抑制する要素になるのかといったことが、統計的に解析されているんです。

不正をするドライビングフォースで言えば、他人の不正を目撃する、そして不正が自分だけでなく、ほかの人の利益にもつながる、といったことが挙げられています。もう1つ興味深かったのが、創造性が高い、言い換えれば、自分を正当化して説明する力があるということもドライビングフォースのひとつです。だから、創造性が高い人は不正に手を染めがちになります。

逆に、論文を提出させるときに宣誓させたりすると、それが不正の抑制要因になります。アメリカではそういったさまざま研究が日々されていて、不正を防ぐ手立てとして活かされているんです。

利益相反の「マネジメント」とは

―― では利益相反の問題についてはどうでしょう。

渡部その問題についても、アメリカでは「利益相反のマネジメント」と呼ばれている考え方が確立されています。規則とか規制ではなく、マネジメントと呼ぶのは、大学職員としての利害と企業における利害の対立は、大なり小なり起きるものだからです。この対立をゼロにしようとすると産学連携はできなくなると言ってもいいでしょう。

大学組織自身にとって何が利益相反の一番の問題点かというと、企業から巨額の資金をもらっているのだからその企業に都合のいい研究をしているのだろうと世間に思われること。つまり、独立した存在であるがゆえに世間が大学に対して抱いている「Integrity(期待)」や尊敬が失われてしまうことです。そうなると一企業と何ら変わらなくなってしまう。だから「Integrity」は重要なキーワードになると思いますし、絶対に維持しなければなりません。

とはいえ、資金提供に対する世間の疑惑の念を完全に排除することは不可能なので、それをどうやってマネジメントするかという考え方がアメリカでは発達してきたわけです。その方法は大きく2つの組み合わせからなり、1つは隠し立てせず公表すること、もう1つが研究や判断にバイアスを生んでいないかどうかを第三者に評価させることです。そして何か問題があれば第三者委員会がアドバイスをし、それに従っていれば、その人の利益相反状態を大学としては問題にせず、従わなければ初めて問題視する。こうしてアメリカは、個人の利益相反の問題に対処してきました。

一方で、大学ぐるみの利益相反の問題も増えてきていて、今回のシンポジウムでもここをポイントにしています。それは、大学が出資できるようになったために、日本でも直面する問題だからです。日本にはその面でのプラクティスがまったくなかったので、最近はそういったこともアメリカの事例などを参考に勉強しているところです。

―― 最後に、大学が自立するためにまずどこから手をつけるべきでしょうか。

渡部やはり人材育成でしょう。何を言っても人がいないとどうにもなりません。研究不正や利益相反の事例は日本にはまだ蓄積が少ないのです。組織的な事例となるとなおさらです。そういったことに通じた人を急いで育てていかないといけないと思っていますが、それには今回お呼びしているハーバード大学のAra Tahmassian先生のような方に教えを請うて学ばせるのが個人的には最善だと考えています。今回のシンポジウムでは、社会との連携とコンプライアンスという両輪を支えるこの人材育成についても議論したいと考えています。

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