リスクと安全保障


2015.01.29

シンポジウム・リポート 1/3 
2014年10月29日 「これからの日本のリスクを俯瞰する」

東日本大震災後の日本はどうあるべきか? まずリスクを俯瞰する

東日本大震災をきっかけとして

 「東日本大震災が、複合的なリスクを考えるきっかけになった」

 東京大学公共政策大学院・城山英明院長は、「これからの日本のリスクを俯瞰する」シンポジウムで開口一番、そう語った。このシンポジウムは同大政策ビジョン研究センターの「複合リスク・ガバナンスと公共政策」プロジェクトの報告と検討の場である。なぜ、複合リスクなのか? 基調講演での城山氏の発言を借りよう。

 「現代社会はさまざまなリスクへの対応が求められている。東日本大震災のあとの対応においても、自然災害がひとつのきっかけになり、リスクのカスケード(連鎖)が見られた。原子力災害が発生して、どのように避難すべきか。また、対応する医療はどうなるか。さらに関連した食品の安全性のリスクも生じた。これらの各種のリスクへの対応では、一つのリスク対応が同時に複数のリスク対応となるような効果的な場合もあるが、一つのリスクへの対応が別のリスクを高めるというトレードオフになる場合もある」

 リスクは単独で発生するのではなく複合的に発生する。そこに対応の難しさがある。

複合リスクへの対応は現在でも十分ではない

 シンポジウムはプロジェクトの中間報告として開催され、東日本大震災で明らかになった問題や教訓が取り上げられた。同センター客員研究員でもあり、経産省で石油備蓄を担当している浅野大介氏は、基調講演の中で、東日本大震災対応の陣頭に立った経験から、自然災害時におけるエネルギーの提供について、具体的事例を踏まえ、リスク対応の実情を語った。

 「石油供給という論点で東日本大震災のときにどんな教訓があったのか。そこから得た教訓をもとに今後、何をしていくべきか」そう問いながら、答えを模索している。「石油を被災地にまで届けるために必要な企業や自治体、それぞれの役割を整理して一つ一つ前に進めているのが現状である」

 東日本大震災から3年が経ち、対応は進んだだろうか。残念ながらそうとは言えない。2014年2月には山梨県で豪雪被害が発生し、自然災害リスク対応の不手際が再び露呈した。現状では、自然災害の対応は都道府県レベルの自治体が主導することになっているが、それだけでよいのか? 日本の国家のレベルでの対応はどこまで必要なのか。浅野氏は問う。

 「いったい東日本大震災のときから何が変わったのか? 結論から言うと、何も変わっていない、とまで言うのは言い過ぎかもしれないが、根本的なところは変わっていない。これではまずい。危機感を新たにした」

 災害が生じてから問題が提起されるのが現状である。広島県の土石流災害や長野県と岐阜県の県境の御嶽山の噴火でも、自然災害への対応のまずさが被害を拡大した。

 日本が抱えているリスクはそれだけではない。2014年夏のデング熱感染が警鐘となったが、エボラ出血熱のような感染症の世界的感染大流行(パンデミック)が日本でも発生しないとは限らない。シリアからイラクへ拡大するイスラム過激派組織「イスラム国」に共鳴する日本人もいるなか、国際的なテロ活動が日本を襲う可能性もある。現に人質事件が発生し、身代金を要求されている。戦争のリスクさえ現在の日本は抱えている。沖縄県の尖閣諸島での小競り合いは、過熱すれば戦争に至る。少子化など長期的な国家運営の失敗もある。

 日本国家のリスクに目を向けたとたん、あちこちから手も付けられないほどさまざまなリスクが立ち上がる。

すべては「リスクの俯瞰」から始まる

 日本を取り巻く各種のリスクの中に、ただ立ちすくんでいるだけではいけない。だが、リスクの議論自体が難しい。そもそもすべてのリスクへの対応ができないという限界がある。公共の予算には限界があり、対応する組織や人材にも限界がある。何を最大のリスクとするかという合意を得ることすら難しい。リスク対処の政策過程はもちろん利害関係と無縁ではいられない。また、地震対策と少子化を並べて、どちらが優先的に対処すべきリスクなのかという議論では、方向性すら見いだしにくい。そこで二つの指針が必要になる。

 一つは、日本のリスクを考えるとき、リスクの総体の俯瞰が必要になることだ。リスクという風景(ランドスケープ)を見渡すことである。リスクの全貌が見えなければ、リスクの議論はできない。そこには、多岐にわたるリスクの範囲とその相互関連性、確率的な可能性、発生した場合の被害の影響度などが含まれる。

 この俯瞰の必要性から東京大学政策ビジョンセンターの「複合リスク・ガバナンスと公共政策研究ユニット」は、リスク議論の枠組みとなる「リスク・ランドスケープ調査」を実施し、結果をリスクの俯瞰図であるリスク・ランドスケープにまとめた。その上で、さらに個別分野の専門家で討議する場として公開シンポジウム「これからの日本のリスクを俯瞰する」を開催したのである。

 調査の原点となったのは、スイスのダボスで毎年開催される世界経済フォーラム(通称・ダボス会議)のグローバルリスク報告書(GRR: Global Risks Report)である。この枠組みをもとに、日本という国家固有のリスクを検討した。

日本に想定される67項目のリスクの相互連関マップ。各種関連から繋がりを図示した

日本に想定される67項目のリスクの相互連関マップ。各種関連から繋がりを図示した
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さまざまなリスクは相互に関係している

 国家規模のリスク対応を考える上でもう一つ重要なのは、災害からの復旧である。どこから復旧に着手したらよいか。これを考えるためには、リスクの依存関係を見直す必要がある。一つのリスク対処をするために前提となるリスク対処は何か、その順序である。

 具体的な例として、豪雪によって孤立した地域の対応で、食料や水、医療の確保をどうするのかと考えてみよう。最初に想定される対処は、食料や水や医療器具の供給だろう。だが、いくら食料や水が用意されていても、孤立地域に運べなければ意味がない。するとこれらは輸送手段に依存していることがわかる。そして輸送手段の実現を考えるなら、自動車のガソリンや電車の電気などエネルギーがその前提として必要だ。輸送はエネルギーに依存している。医療器具についても同様である。電気のないところでは利用できない。リスクの依存関係で見ると、まずエネルギーがある。次に輸送手段があれば、その上で食料や水、医療機器の対応が可能になる。

 リスク依存の関係性について、先行的に対応してきたのが北欧諸国だ。なかでもフィンランドでは、国家緊急供給局で「供給の確保」を「エネルギーとエネルギーネットワーク」として階層的に明示している。この考え方は、日本のリスクを考えるうえでも示唆に富む。このシンポジウムでも、「レジリエント・ガバナンス研究会」が基本講演で提起した。リスク・ランドスケープと合わせて検討が求められている。(佐藤信正)

国家緊急供給局が提示する、リスク諸要素の依存関係のピラミッドとさまざまな脅威

国家緊急供給局が提示する、リスク諸要素の依存関係のピラミッドとさまざまな脅威

(終)

シンポジウム・リポート <3回シリーズ>

<1/3> 「これからの日本のリスクを俯瞰する」
<2/3> 「これからの日本のリスクを俯瞰する」
<3/3> 「これからの日本のリスクを俯瞰する」

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