リスクと安全保障


2015.05.12

シンポジウム・リポート 2/3 
2014年10月29日 「これからの日本のリスクを俯瞰する」

日本の複合リスクの全体を俯瞰図に描き出す

日本が抱える複合リスクの解明に着手

 自然災害、パンデミック(感染症の大流行)、テロ、地域紛争、少子化など、東日本大震災をきっかけとして見直されるようになった各種のリスクは、複合リスクとして日本の未来に立ちはだかっている。これらをどのように考えたらよいか。重要なのは、リスクという風景(ランドスケープ)を見渡すことである。リスクの全貌が見えなければ、議論は困難だ。ランドスケープの中で各種の「リスクの依存関係」を見渡し、複合リスクがどのような仕組みになっているかを理解する必要がある。

 東京大学政策ビジョンセンター「複合リスク・ガバナンスと公共政策研究ユニット」ではこれまで「リスク・ランドスケープ調査」を2回実施し、その結果を「これからの日本のリスクを俯瞰する」シンポジウムで世に問うことにした。東京大学政策ビジョン研究センター・三国谷勝範教授の基調講演を紹介しよう。

5つの分野から複合リスクを捉える

 「リスク・ランドスケープ調査」の下敷きになったのは、世界経済フォーラム(WEF)によるグローバル・リスク報告書(GRR)だ。世界経済フォーラムでは、グローバル・リスクを検討するために、「グローバル・リスク・ネットワーク」作業部会を2004年に設立し、以降毎年、主要なグローバル・リスクを取り上げ、経済的な影響と解決策を提言するグローバル・リスク報告書(GRR)を発表してきた。2014年で9回目となる。報告書の形式は固定化されず、毎年その年に注目されるリスクが際立つように工夫されている。

 報告書では、主要なグローバル・リスクの5分野として、経済(Economic)、環境(Environmental)、地政学(Geopolitical)、社会(Societal)、技術(Technological)を掲げ、それぞれの重要な項目を定量的に示している。日本で今回実施した調査でもこの分類を採用している。

 2013年版の報告書では5分野それぞれに10項目を掲げ、全50項目について、影響力(Impact)と発生しやすさ(Likelihood)を分析した。これに対して2014年版ではまず、グローバル・リスクでもっとも懸念される事項(Highest Concern)10項目を先行して示し、焦点を絞り込んでいる。また、各分野では項目数を限定しなくなった。たとえば地政学では7項目あるが、技術は3項目となっている。

 全体としては、2014年版では31のリスクがランドスケープとして取り上げられることになった。長年にわたるグローバル・リスク研究によって、主要なグローバル・リスクが絞り込まれたと見てもよい。しかし日本ではこの種類の研究は着手したばかりで、そこまで絞り込むことは難しい。現状ではようやく50項目に絞り込めた状態である。

世界経済フォーラムによるグローバル・リスクのランドスケープ

世界経済フォーラムによるグローバル・リスクのランドスケープ
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日本固有の複合リスクをどう評価するか?

 日本が抱えている複合リスクを考えるときに、当然グローバル・リスクの枠組みをそのまま適用することはできない。単純な話、日本では地震は大きなリスクだが、世界全体では地震の影響の少ない国もある。

 このため「複合リスク・ガバナンスと公共政策研究ユニット」では、2013年4月時点のグローバル・リスク報告書をもとに、日本固有のリスクとして想定できそうな51項目を追加。全体として101項目を設定して、第1回アンケート調査を行った。まず、幅広くリスクを捉えてから絞り込むという意図である。

 リスクの評価にあたっては、グローバル・リスク分析と同様、2つの軸として「リスクが発生した場合の影響 (Impact)」と、「向こう10年間での発生しやすさ(Likelihood)」を考慮した。さらに日本版では、この発生しやすさを「日本の原因者可能性(わが国が発生源となる可能性)」と「日本への影響可能性(わが国が影響を受ける可能性)」に分けた。結果、リスク項目の評価は、「影響度」に加え「発生可能性」「影響可能性」の三つが軸になった。加えて、「中枢リスク」として各分野で最も重要と思われるリスク項目を一つ回答者に選んでもらった。

 第1回アンケート調査は、日本版の複合リスクを考える上での方法論的な試行であり、第2回のための準備だ。第2回では項目も前回の101項目から67項目に絞り込まれて実施された。

50項目の複合リスクを選び出す

 第2回アンケート調査の結果は、5分野に分けられ、あらかじめ設定された軸によって分析された。最初に見えてくるのは、影響可能性と影響度の評点で上位に来る20項目である。これらが日本社会の複合リスクを考える原点となる。

影響可能性と影響度の双方で上位20項目

影響可能性と影響度の双方で上位20項目
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 リスク発生時の影響の大きさとして、地震と津波が最上位に来ていることが注目される。日本の複合リスクへの取り組みがまさに東日本大震災を起点としたことをうかがわせるものだ。その他に注目されるリスクとしては、「日米関係の不安定化」といった地政学リスク、「エネルギー確保の不安定化」など経済リスク、「少子高齢化問題への取り組みの失敗」など社会分野リスクがある。なお、影響度の大きい項目はメディアで取り上げられている話題が多く、メディアによるバイアスがあるかもしれない。

 次に今後10年間の日本のリスク総量を想定するために、影響可能性と影響度の二要素を掛け合わせた数値で捉えなおした。これによって次の一覧表ができる。なお、表中のGRR項目と合体項目はグローバル・リスクの項目に重なる。追加項目は日本固有のリスクと考えられる項目である。群は日本が要因となる可能性の大きさで分けられている。

一元化したリストの項目

一元化したリストの項目
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 この一覧表から改めて主要なリスク項目として50項目を選び出し、5分野でまとめると次のようになる。この50項目の選択が、日本の複合リスクを考える上での原点だ。

選び出された50リスク

選び出された50リスク
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日本版リスク・ランドスケープに現れた特性

 50項目のリスクから、どのように日本のリスク・ランドスケープが見えてくるだろうか?2013年版グローバル・リスク報告書と同様、影響力と起こりやすさの代表としての影響可能性という2軸でまとめると次のようになる。右上に行くに従って、リスクが発生しやすく、かつ発生した際に大きな影響をもたらすことになる。

影響と起こりやすさでまとめた50リスク

影響と起こりやすさでまとめた50リスク
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 重要なリスクとして目立つのは、やはり大地震と大津波だ。次いで、エネルギー確保、少子化対策、サイバー攻撃が注目される。他のリスクは2軸の相関として一つのまとまりを形成し、左下に下がるにつれ注目の度合いが下がる。気候変動や所得格差といったリスクは、リスク・ランドスケープのなかでは特に注目されるとまでは言いがたい。これらに反し、特異な位置にあるリスクが地政学リスクの日米関係である。日米関係のリスクは、破綻した際のリスクは大きいが発生しやすいとは見られてない。

 次に、それぞれの分野の個別のリスク項目の関連を見よう。全体は次のようになる。関連の全体を浮かび上がらせるために、ここでは50項目に限定せず選んである。各項目の色分けはそれぞれの分野を示している。関連はそれを結ぶ線の太さによって表現されている(線の色には分類的な意味はない)。関連の表示は焦点の置き方によって変わるが、ここでは代表的なものを掲げておく。

リスク項目の関連図

リスク項目の関連図
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 各種リスクの関連を見てまずわかることは、地政学リスクが他のリスクとは関連は弱く自律的な領域を形成していることだ。自律性としてこれに続くのが環境リスクである。これらの領域では個別のリスク対応が優先されるという解釈になるだろうか。

 他方、複合性が高いリスクは、社会リスクと経済リスクの二分野である。当然、対応も難しい。技術リスクについては、分野としてのまとめが難しいほどに分化している。

 リスク関連図はまだ最終的なものとは言えないが、現時点で注意すべきことは、関連の強いリスク(太い線で繋がれている項目)は、本質的には同一のリスクと見なせる可能性である。項目分けの妥当性は、今後も問われることになる。他方、これらの強固な関連そのものがリスクの強さでもあり、あえて別項目として見てよいとも考えられる。

 こうして暫定版ではあるが、日本のリスク・ランドスケープを描くことができた。これは、それぞれの分野の専門家からはどのように見えるだろうか。この後、個別分野の専門家を交えてラウンドテーブルで議論された。

(その2終)

シンポジウム・リポート <3回シリーズ>

<1/3> 「これからの日本のリスクを俯瞰する」
<2/3> 「これからの日本のリスクを俯瞰する」
<3/3> 「これからの日本のリスクを俯瞰する」

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