医療改革


2014.06

インタビュー「個別化医療、再生医療で日本のポテンシャルを」
/慶應義塾大学教授・東京大学教授 鈴木寛

医療費の増大に悩む日本。その中でも「医療貿易の赤字2兆円」を黒字にすれば、国民経済の景色は変わってくる、と鈴木寛東大教授・慶大教授は言う。

―― なぜいま医療イノベーションが必要なのですか。

鈴木寛教授

鈴木この10年間、日本は医療機器および医薬品という分野で約2兆円の輸入超過になっています。医療機器で約6000億円、医薬品で1兆4000億円です。医療費が増えるのは、高齢化だけでなく技術革新という理由もありますが、使われた医療費が国内に還流するのであれば雇用と税収につながります。今は医療費が増えてしかも輸入超過なので、どんどん日本の富が流出している。逆に、医療関連分野が輸出財になれば、それで外貨を獲得できるわけですから、国民経済的にプラスになります。要するに、日本は保険医療の赤字と医療貿易収支の赤字という2つの赤字を抱えていますが、これを何とかしたいということです。

―― 医療費増大を抑えるあまり有効な手立てはない?

鈴木残念ながらありません。しかし、医療イノベーションはまだ手はあると思います。輸入超過をなくしてさらに輸出超過にもっていくポテンシャルはあります。
医療産業がいま世界的に急成長しています。世界全体で医薬品1兆ドル、医療機器のマーケットは約3000億ドルになりました。この勢いはさらに加速度がついてくるでしょう。ここにどれだけ日本発の医療イノベーションが食い込めるかが課題です。
2013年6月に私たちは医療イノベーション5カ年戦略を作りました。医療産業というとこれまでは創薬と医療機器が中心でしたが、いまは再生医療と個別化医療という新しい分野が入ってきました。

 

―― 個別化医療とは?

鈴木人はそれぞれゲノムが違いますね。今は標準の薬をAさんにもBさんにも同じように適用するのですが、Aという患者さんにはこの薬を効くので投与する、Bという患者さんは副作用が出るので投薬しないとか、人によって、治療・投薬を個別化していくということです。個別化医療というのはある意味でゲノム解析がベースにありますが、それを支えているのはITです。つまり「医療×IT」です。
この世界はいま2つのIといわれています。1つはiPS、もう1つがITです。再生医療がiPSで、個別化医療がビッグデータを初めとするITです。この2つのIを駆使して、日本の医療産業、医療イノベーションが世界をリードするポテンシャルはあると考えています。iPSについては京都大学の山中伸弥先生が開発しました。また日本のITは世界的に見ればアメリカに次いでいます。また日本のインターネットインフラは、世界で韓国と並んで日本のインフラは世界一で、技術者も一定程度確保できます。ヨーロッパよりはポテンシャルは高いでしょう。

―― 創薬、医療機器、再生医療、個別化医療という4本の柱のうち、とくに有望なのは?

鈴木やはり再生医療、医療機器でしょう。医療機器は部品レベルで見ると日本の部品がいっぱいあります。しかしそれを組み立て、臨床用にするところが弱い。創薬については世界のメガファーマーにかなり後れを取っているといわざるを得ません。

―― どういうふうに育てますか?

鈴木寛教授

鈴木再生医療について2つの法案ができました。1つは、再生医療推進法という非常に基本的な法律で、再生医療に力を入れていこうというものです。それに基づいて再生医療等の安全性の確保等に関する法律が昨年平成25年秋に成立しました。今までの慎重には慎重を期するような薬の審査からすると非常に画期的な立法です。安全性が確認されれば、有効性が完全に確認されなくても、上市しておいてそのあとモニターしていく、という考え方です。仮承認をして後にモニタリングすると、こういうことに変えました。
それから、これまで医療機器については薬事法という法律の中に入っていたのですが、それを改正して、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律が平成25年秋に成立し、医療機器を別建てにしました。医療機器は非常に改良が多いのですが、改良すると手続きを全部一からやらなくてはいけなかったのを、実態に合わせた審査にすることが1つ。もう1つはPMDA(医薬品医療機器総合機構=医薬品、医療機器等の審査および安産対策などを担当している独立行政法人)はハイリスクのものに関してはやるのですが、そうでないものについては第三者機関に委託することができるようになりました。これによって医療機器の審査がスピードアップされるようになりました。
個別化医療については、東北大学にメディカルメガバンクが約650億円かけて立ち上がり、と同時に主要大学およびナショナルセンターのコンソーシアム的なものが、バイオバンクジャパンをはじめ、徐々に体制ができつつあります。そして医療情報学、医療の知見だけじゃなくて情報科学の知見を持った人たちによるチームを作るために、人材育成や、そのための研究プラットフォーム作りが行われています。
もう1つ大事なのは日本版NIHです。ある意味で制度組織体制整備の仕上げとして日本版NIH法が成立し、来年の4月から立ち上がります。ここが司令塔となって、基礎研究から上市に至るまで、これまで縦割りの弊害があったところを、一気通貫のパイプラインをうまくマネージしながらやっていくことになります。

 

(インタビュー取材 2014年6月)

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