医療改革

サステイナブルな医療をめざして<1/5>「アカウンタブル・ケア」とは何か

2014.10.01

サステイナブルな医療をめざして<1/5>
「アカウンタブル・ケア」とは何か

医療費の増大は、どの先進国にも共通する深刻な問題だ。世界で最もGDPに占める医療費の割合が高いアメリカでは「アカウンタブル・ケア」という新しい考え方を実験している。これが日本にとっても「一筋の光」となるのか。7月7日、8日に開催された東大・ブルッキングス研究所による「健康・医療シンポジウム」の内容を概観する。

「アカウンタブル・ケア」とは何か

アカウンタブル・ケアという言葉自体は新しいが、考え方としては昔からあったものだと、このシンポジウムを中心になって企画した東京大学の佐藤智晶先生は言う。医療政策のポイントは、「より多くの人に、より質の高い医療サービスを、より安価に提供する」ことだ。しかしこの3つはトリレンマとされ、すべてを満足させることはできないと考えられてきた。この医療政策におけるトリレンマに真正面から取り組み、「世界で初めてひとつの解決策を示せたのがアカウンタブル・ケアだ。」(佐藤氏)

「2年前に米国で初めてアカウンタブル・ケアに出会った時、衝撃を受けました。財政支出の点から考えると、医療制度の問題は議論を重ねるほど気持ちが暗くなることもあるのですが、一筋の光になるのではないかと思ったのです。」

アカウンタブル・ケアの最大の特徴は、アウトカム指標の中に患者の満足度を医療費に組み込んだことである。従来、医療費は医療サービスが提供された量に対して支払われてきた(その保険上の単価は中央社会保険医療協議会が決めている)。この「出来高払い」は、時にやや過剰とも思える医療サービスにもつながる。また患者の側もそれを「安心」ととらえたりもする。たとえば、「念のためにこの数値を調べておきたい」と追加される検査や、「飲んでおくと感染症の可能性が低くなるかもしれない」と処方される薬。それぞれ意味あるものではあるが、積み重なれば医療費は増える一方だ。

最も簡単に説明すると、アカウンタブル・ケアでは、まず初めに各患者について、一定程度の医療費の削減額と治療効果(患者満足度を含む)の目標値を設定する。医療サービスの提供後に、「医療費の削減」とアウトカム、この両方の目標値をどの程度達成できたのか評価し、達成できた医療従事者や医療機関には国、医療提供グループ、民間の保険会社などから特別ボーナスが付与されるという仕組みだ。医療従事者側にとっては目標達成時の追加ボーナスというインセンティブがあるため、医師は提供すべきものはするが不要なものはしないという判断をすることになる。患者の満足度を含むアウトカムを上げることと、コストを抑えることを両立させなければならないのである。より効率的で質のいい医療の提供を目指して、工夫と努力が必要ということだ。他方、患者は一定の質が保たれた医療サービスを、これまでよりも安価に受けられるようになるのだ。

ここで重要なのがインセンティブを与える際の「評価」である。これについては、現在、達成すべき項目は決まっているものの、その評価方法は各医療提供グループに任せられている。今は実証段階であるため、より良い方法を探し出して、今後全体に展開しようといと考えている。評価方法の中には患者へのアンケートが含まれ、アウトカム指標の半数以上の項目が患者満足度に関する内容だ。「ここが非常に革新的だ」と佐藤先生は言う。

「医療サービスを評価する時、これまでは『医師がプロとして良い医療を提供したとは言えても、患者が良い医療を受けたのかは分からない』というのが一般的な考え方でした。でもアカウンタブル・ケアでは、患者自体がよい医療を受けたと感じているのか、『アンケートで何%以上なら達成した』と測れるようにした。ここまでインセンティブスキームを組み込んだソリューションプランは世界初。これがそのまま日本に導入できるわけではないが、一つの答えを示しているという点で大変興味深いと思います」

プログラム開始から1年で約380億円の医療費を削減することができた。必然的に増える方向にある医療費がいくらかでも削減できたのは大きな驚きである。もちろん減った理由の全てがアカウンタブル・ケアに起因するものとは言えない。しかし、これが衝撃的な数字であることは事実だ。この米国発の医療政策が、日本の現状を打開する少なくとも一つのヒントになることだけは間違いなさそうだ。

アメリカの医療制度と「オバマケア」

オバマケアとは、オバマ政権が推進する米国の包括的な医療保険制度改革の通称。自由診療が基本の米国では医療費が高額になる。公的医療保険制度としては、高齢者・障害者向けのメディケアと低所得者向けのメディケードがあるが、その対象とならない多くの国民は民間の医療保険に加入する。2000年代に入ると医療の高度化が進み、それにあわせて保険料も高額化した。雇用されているときは、雇用者側に保険料を分担してもらえるが、失業してしまうと、個人で保険料を支払うのが難しくなる。これによって中・低所得者を中心に、国民の約6人に1人が無保険者という状態になった。病状が悪化するまで医療を受けない人も多く、結果として国の医療支出が膨らむなどの問題が起きた。これらの問題を解決するため、オバマ政権は医療保険制度改革を最重要課題に位置づけ、2010年3月に医療保険制度改革法を成立させ、2013年10月1日から受付を開始した。民間よりも安い公的医療保険への加入を国民に義務付け、保険料の支払いが困難な場合は補助金を支給する。アメリカ議会の試算によれば、以降10年間で保険加入率は94パーセント程度になると試算している。

サステイナブルな医療をめざして <5回シリーズ>

<1/5> 「アカウンタブル・ケア」とは何か(2014.10.01)
<2/5> 医療ITの活用とアカウンタブル・ケア(2014.10.01)
<3/5> 日本はアカウンタブル・ケアを導入できるか?(2014.10.17)
<4/5> 審査期間を短縮しても「安全」は確保する(2014.10.17)
<5/5> 医療制度改革、新たな一歩を踏み出す(2015.02.26)

PAGE TOP