医療改革


2015.06.08

首都圏2030座談会(その1)
多数の独居老人や膨れる介護ニーズにどう対応する

首都圏2030座談会出席者(50音順)

飯間敏弘

東京大学大学院教育学研究科特任助教

膳場貴子

キャスター

西内啓

統計家・東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員

森田朗

国立社会保障・人口問題研究所所長

山本一郎

投資家・東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員

司会

藤田正美

フリージャーナリスト・東京大学政策ビジョン研究センター特任研究員

藤田日本は今後、世界史に類例のない少子化と高齢化を迎えます。これが東京を中心とした首都圏にどのような問題を引き起こすのか。政策シンクネットの『首都圏2030』プロジェクトの中心となる問題意識について話し合いたいと思います。まず、森田先生から首都圏の特異性をどのように捉えたらよいかをお話いただきたい。

これからは首都圏が深刻に

森田最初のポイントは「視点の転換」です。少子化や高齢化は従来、地方自治体として基盤の弱い地方の問題、あるいは農村部の問題だと見られがちでした。しかし、意外にもこれからは首都圏が大きな問題になります。

政府は「地方創生」という理念を強く打ち出して、地方に関心を向けています。少子化が進むことで地方が消滅しかねないから、若者が首都圏に移るのを止める、あるいは首都圏に出て来た若者を地方に戻したり、別の地方に移住させようとしています。しかし統計数字を見ていけば、今後急速に進展する高齢化でもっとも深刻な状況に陥るのは首都圏です。膨大な数の高齢者が現れます。

1950年代半ばから1970年代半ばの高度経済成長期に地方から都市部に出た若い人たち、まさに団塊の世代の人たちですが、こうした高度成長を支えてきた人たちが塊となって高齢世代になります。プロジェクト名の『首都圏2030』のように、2025年から2030年に、この人たちは75歳以上、いわゆる後期高齢者世代に入ってきます。

藤田まさに私自身の世代です。とても差し迫った状況です。

森田農村部には生活を支え合うコミュニティーがまだ存在しています。各種の問題があっても、その地域で一生を過ごしてきた人にとっては、各年代層を包み込むコミュニティーがあり、互助の仕組みもまだあります。しかし都市部にはそういうコミュニティーがあまりありません。住宅も公団住宅をはじめ画一的な集合住宅ですし、家族の形態も小規模の核家族です。高齢化すると老夫婦二人か単身世帯になります。特に男性の場合ですと、一日の大部分の時間を通勤先で過ごしていたので、生活の基盤としての地域コミュニティーという意識が希薄なケースが多いと思います。

その一方で、高齢者が急速に増えると首都圏の医療機関や福祉施設もいっせいに不足するような状況になります。早急な対応が必要です。今でもちょっと遅すぎるかもしれません。

「社会資本」としてのコミュニティー

藤田若者を地方に戻せといっても、少子化で東京の若い人も急速に減っきているわけですよね。ここは若い人の代表、西内さん、どうですか。

西内そうですね、逃げ出すところでもあるといいのですが(笑い)。

でも自分としては、日本の衰退現象のようなものに、あまり「やばい」というイメージは少ないのですね。自分が経済的に自立したのはバブル崩壊後の日本ですが、物心ついたときからずっと停滞しているなあ、というくらいのイメージです。だから今後もなんとか大丈夫なんじゃないかというのが、たぶん私たちの世代の感覚としてあると思います。

藤田「バブルなんて知らないよ世代」にとってはこれが常態であると。

西内ええそうです。それと、高齢化という問題も先進国共通の問題ですね。そう考えて、全体として経済成長というものに目を向けると、成長しているところや停滞しているところなど、いろいろ明暗があります。その違いってなんなんだろうというところにむしろ関心があります。

興味深いのは最近の研究です。「歴史的なデータセット」という言い方を経済学者はしているんですが、電子化によって過去何十年以上という世界中の国や地域の経済統計のデータが処理できるようになって、初めて見えてきたものがあります。

多くのデータや分析モデルにおいてかなり確実に経済成長に影響していそうだと示唆される要因は、人的資本です。教育水準だとか、国民人口当たりの論文とか特許の数とかですね。

もう一つは、社会関係資本です。簡単に言うと、隣の人を信用できるかとかそういうレベルを社会が維持しているかということです。社会やコミュニティーに基本的な信用というものがないと、多少経済成長の芽が出ても、役人のワイロで消えたり、犯罪への予防に費やしたりして消えてしまいます。

そうした面で日本を見直すと、日本にはまだまだ成長の余地があると思えます。ただし今後はもしかしたら、これまで強みだった日本の社会関係資本が崩れるかもしれない。そうなると少し怖いかもしれません。

左から、山本氏、膳場氏、森田氏、西内氏、飯間氏

左から、山本氏、膳場氏、森田氏、西内氏、飯間氏

国が支える「公助」はもうもたない時代に

藤田やはり若い世代の飯間さんはいかがですか。

飯間私はもう少し先を見ます。日本の国家債務というのは、審議会の試算だと2060年には8000兆円を越えると言われています。この2060年が重要な年になると思うんです。ここで日本の高齢化率が40パーセント越えて、その後はもう下がりません。累積債務の金額もそのままです。高齢者は、税収のもとになる国の生産性に寄与しません。

8000兆円の国家債務というのは現実的ではないでしょう。すると実際には2060年かその前の段階で、日本の財政が破綻する可能性があります。非常に厳しい状況になると思っています。今、大部分の日本人が思っているよりも厳しい社会が来るのだろういうのが私の認識です。そうなると、社会を支える「公助・共助・自助」のうち、税金に依存する「公助」はもう機能しなくなるでしょう。「共助・自助」というコミュニティーの機能がいっそう問われるようになります。

40代になって日本社会の問題に気がつく

藤田首都圏の希薄なコミュニティーでは不安ですね。団塊世代ジュニア世代として、山本さん、膳場さん、どうですか?

山本私たち団塊ジュニアの世代が、日本の人口維持という点では「最終バス」だったと思うんですよ。もう乗り遅れてしまったのかもしれません、いろんな意味で。人口推計の比較的低い見通しに沿ってしまう人口構造を、われわれが作ってしまったという責任も感じています。

さらに私も40歳を越えて、次の世代にどういう社会を引き継いでいったらいいのかと考えるのですが、今後の社会について「こうしていくべき」という青写真が、実ははっきりしていません。

私は慶應義塾の内部進学で、同級生に中小企業など経営者の子息が何人もいますが、継いだ会社が経営破綻して路頭に迷っていたりするわけですよ。20年前は成長産業でお金をたくさん稼いでいた人の子弟を見ていると、90年代以降の日本の閉塞感の実情が良く分かります。高度成長が終わり、人口ボーナス期が終わった現状で、政府が「第三の矢がなんだ」とか言っても、ぴんとこないというのが正直なところです。

藤田山本さんは首都圏で生まれ育ったわけですが、コミュニティーという感覚はありますか。

山本難しいです。さきほど森田先生がおっしゃったように若い自分たちの世代が地域コミュニティーを支えていかなければいけないのでしょうが、私たちの世代では地域コミュニティーという感覚は希薄です。仕事の環境とか子どもの教育で、より良いと思うところへ簡単に引っ越します。そして、そのときどきに町内会や地域コミュニティーに入っていっていくのですが、こうした生活様式だと地域の高齢者の面倒を見ながら、自分もここで老後を暮らすというふうにはコミットしづらいですね。自分自身が高齢者になってそこの地域に根付いているビジョンもないし、そこに住む若い人達にお世話してもらう感覚もない。

膳場現役時代は都市部で地域との接点をもたずに生活していても、いずれは地域コミュニティーに入っていく、というのはわかります。でも、自分自身を振り返ると、いま自分がいるコミュニティーは、仕事にしても友人にしても、ある程度意識的に選択して付き合っている訳なので、地域という括りで、じゃあ関係を結んでいきましょう、ということには抵抗があるんです。自信がない、という感覚に近いかも知れません。こうした意識を変えるのは難しい。自分を含めて、若い世代をどういうふうに啓蒙していけばいいのか考えます。日常生活の中で違和感なく地域にコミットできる仕組みがあれば、若いうちから地域に対する意識を高められるのですが。

藤田若い世代が地域コミュニティーのなかで「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」をどうするかという問題でもあるということですね。

山本そう言われて初めて「ライフ(生活)って何だっけ」とか思うわけです。実は、誰もよくわかっていない。「ワーク(仕事)」という点でも、都市部の高齢化対策という点では、みんなが高齢者ばかりなって「老老介護」をしているような状態です。

デイケアセンターで働いている主力は50代後半の方が多いと思います。仕事を辞めて再就職できない、親の介護を終えたあと再就職できない。かなりのご苦労もおありだと感じます。そこで地域になんとか居場所をみつけながら働いておられる。そうした姿を見ると、首都圏のコミュニティーでも、もう少し違った人生のストーリーを見せながら、もっといろんな幅のなかで提供することが必要なのではないかと思います。成功か失敗かというレールの上ではなくて、生き方というのはこれからいろんな千差万別のものがあって、選択肢がいろいろあって、そこで居場所が見つかるようにしないと、いろんな人が漂流してしまいます。

高齢化首都圏の医療をどうするか

藤田森田先生は、高齢化首都圏の医療が問題になると指摘されましたが、今後はどういう医療の姿を描いたらよいでしょう。

森田高齢化社会の医療の課題は何かというと、高齢者は病気がちになり、しかも若いころのように完全には治らないことです。少し極端で刺激的な言い方で申し訳ないのですが、高齢者を死なないように治療することになります。そのために新しい技術とかいい薬も出てきますが、非常にコストがかかります。

また昔の医療は、治ったら退院し職場に戻るというパターンがありました。高齢者はとてもそういうわけにはいきません。そこでいわゆる脳出血とか心臓発作の人を助ける本当の医療と、その後は療養介護というように、治らないけど死なない状態が続くという形で高齢者のケアをしていくことになります。問題は、そうした介護をどこで誰がするかということです。

入所して介護するというのもありますが、そのための老人福祉施設というのは非常にお金がかかります。お金をかけない施設だと劣悪な生活環境になります。そこで厚労省が目指しているのは、在宅で家族とか近所の人と触れ合いながら療養し幸せな形で終末を迎えるそれがよいのではないかという方向性です。そのためには在宅で、どういう形で医者に往診してもらうか、あるいは看護師に診てもらうか、そういう仕組みを作っていき、医療の提供体制が変わるように財政的な処置や診療報酬の仕組みを作ろうとしています。

藤田在宅で家族や近所の人と触れ合いながら療養して、幸せな形で終末を迎えるというのは、まさに地域コミュニティーの問題ですね。それを今後首都圏で制度としてどのように支えていくのかが、大きな課題ということになりますね。(その1終わり)

首都圏2030座談会 <2回シリーズ>

<1/2> 首都圏2030座談会(その1)
<2/2> 首都圏2030座談会(その2)

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